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「例えばよぉ」 ずっと問題集とにらめっこをしていた彼が不意に口を開いたから、小説を読んでいた私は顔を上げた。探偵の謎解きはとうに終わり、犯人のつまらなくて全く共感できない動機告白が続いていたので、ちょうど飽きてきた頃だったのだ。 彼は相変わらず、問題集に苦戦しているようだった。シャーペンを握りしめてはいるが、ノートは白紙のまま。視線もまだ、問題集の上だ。 「もうすぐ死んじまうじいさんがいるとするだろ?」 「えぇと………それ、今あなたが解いている問題と何か関係あるかしら?」 「まぁまぁ。聞いてくれよ。暇そうにしてるあんたへのせめてもの心配りだよ」 そもそも誰かさんが何度も赤点なんて取っていなければ、私も放課後にわざわざ学校に残されることはなかったのだけど。という文句は飲み込んだ。心優しい私のせめてもの心配りだ。
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