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「帰宅部の学級委員て、そりゃあお誂えむきの雑用係よね……」
誰にも聞かれないようにボソッと愚痴を吐いて、私は彼の席の椅子をその机の上に逆さにして積み上げた。空き教室に運ぶためだ。選択科目クラスで使用するときに机がいつも足りていなかったらしい。それにしても、いなくなった直後に教室から席もなくしてしまわないといけないとは。世の中ちょっと薄情だよな、なんて柄にもないことを考えた。
帰り支度や部活の準備を終えたクラスメイト達が、次々と教室を出ていく。その内の数人から声をかけられて、私もそれに答えた。また明日ね、というような他愛もない挨拶だ。
「ぃよっ……と」
空の机は、少々持ちにくいだけで重くはなかった。
一気に運んでしまおうと廊下に出たとき、女生徒に後ろから声をかけられた。
「委員長!何か落としたよー」
出入口の邪魔にならないところに一度机を置いて、私はそれを受け取った。メモ帳の切れ端だろうか。もしかしたら、空だと思っていたが、彼の机に入っていたのを気づかずに落としたのかもしれない。
ありがとう、と彼女に声をかけて、何とはなしにその紙を裏返した。
そこに書かれていたのは、やはり彼の字であった。追試勉強をしていたときに、ノートに並ぶ妙に綺麗な字が印象に残っていたのだ。間違いない。
ただ、
「………何よ、これ」
問題はその中身だった。
そこには短く、
循環器病センター(大阪)
手術
10月
とだけ書かれていた。
次の瞬間、私は走り出していた。
可能性はたくさんある。でも。
胸にあったのは確信に近いものだった。
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