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「じいさんは死ぬ前に、見舞いに来てくれた息子夫婦に聞くのよ。孫はどうしてる。元気にしてるか。幸せに暮らしてるか。ってな。むしろ、それしか聞かねぇ。
ところがだ。つい先日に孫は金欲しさで犯罪を犯して牢屋の中だった。孫が未成年だったから報道こそされなかったが、息子夫婦はそのことを知ってた」
その状況は私でも容易に想像できた。
何て親不孝でおじいさん不孝な孫だ。
「さて。あんたなら、息子夫婦はじいさんに何て伝えるべきだと思う?」
「……へ?私?」
突然の問題提起に、私の思考は一瞬停止した。
おかげで柄にもなく間抜けたような声を出してしまったじゃないか。
急にリセットボタンを押された私の脳は再起動には時間がかかりそうだった。無理なリセットでだんだん熱を帯びるのがわかった。
「知らないわよそんなの」
「ふぅん。とっくに縁が切れちゃったから自分は知らないって言うわけだ」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ!」
彼は下を向いたまま、ひょいっと肩を竦めた。
私の熱を冷ますつもりはないらしい。
そのまま彼の話は続いた。
「確かに白を切るってのも選択肢の一つではあるよなぁ。最近連絡取れてないからわからないけど、きっと元気にしてるだろうさ、みたいな。でもよ」
「でも、何よ」
「それじゃじいさん、やきもきするよなぁと思って」
なぜなら、おじいさんは結局、一番知りたいと願う孫の様子を知ることができないから。だから彼はそう言っているのだろう。確かに、それではおじいさんに悔いが残ってしまう。
可愛いかわいい孫の幸せがおじいさんの幸せであるならば、孫の幸せが確信できない以上、おじいさんの幸せも揺らいでしまうのかもしれない。それは、不幸と言うほどのものでもない気はしたが、幸福でもない気がした。
「じゃあ何?孫から送られてきたみたいに偽装したメールでも見せて、あなたの孫はこんなに楽しそうにしてますよって言えばいいの?」
「メールを!偽装!」
ふはっ、と堪えていたのを吐き出したように彼は笑った。
さてはもう、問題集なんて解く気ないでしょうこいつ。
「それなら信憑性も高くなるよなぁ。いい嘘だ」
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