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下を向いたままの彼の笑顔に張りつく光は赤みを帯びてきていた。そういえば、最近日も短くなってきたなとぼんやり考えて、そろそろ当初の目的を果たさなければと私は思い至った。
「あなたの口から信憑性なんて言葉が出るとは思わなかった。でも、じゃあ息子夫婦の行動の正解はこれでいいのね?」
正解を出さなきゃいけない問題が他にあるでしょうが。とっととそのペンと頭を動かせ。
……を綺麗な言葉に脳内変換しようとしている間に、しかし、彼は首を横に振った。
「いいや、正解とは言えないな」
「……まだ続ける気?それ」
「だって嘘ついてんだぞ。ホントのこと隠して騙してるってことじゃねぇか」
「私とそこの問題集は無視かしら」
「むしろ両方真剣に相手してやってんだろ」
どこが真剣なんだ、どこが。
あげくの果てに、お前こそ真剣に考えてみろよとまでのたまいやがる。なるほど、見た目通り挑発はうまいらしい。
開いたまま忘れていた膝の上の小説に私はしおりを挟んだ。
「わかったわよ。で?騙すことはいけないこと?あなたも良い嘘だって言ったじゃない」
「あぁ。良い嘘だよ。じいさんのことを考えた優しい嘘だ。でも嘘ってのは、いつだってバレる危険性を孕んでる」
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