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第一回 朝帰り
いつから、このような関係になったのか。
谷原睦之介は師吉町にある馴染みの出会茶屋を出ると、朝焼けに染まる空を仰ぎ見て、一つ溜め息を吐いた。
(いつかは終わらさねばなるまい……)
長く忍ばせるには耐え難く、危険を孕んだ関係である。
不義の恋とも呼べる。何せ密会の相手は、父・谷原織部の政敵、加藤甚左衛門の三男・加藤楊三郎なのである。
まだ身体に残る楊三郎の体温から、昨夜の官能的な秘め事を思い出せば、後ろめたさに胸が痛む。しかし、それこそが情交を更に燃え上がらせる刺激になっているのは確かだった。
女形のように妖艶で、細い楊三郎の身体が脳裏に浮かんだ。どのような事情があるにしろ、離れがたい男である。
「俺は、どうすればよいのだ」
と、呟く。
楊三郎は、睦之介の二つ年下の十九歳。同じ大組に属する、怡土藩の上士である。
出会ったのは五年前、丹下流羽島道場での事だった。
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