第一回 朝帰り

3/7
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/206ページ
 思わず声が出た。若い男同士の情交で、身体は疲れ果てていたのだ。 「それでよう、脱がした女はよ」 「おう、それで?」  近くでは、町人達が朝から猥談に興じていた。卑しい笑い声。そこには、何も縛られない自由がある。 (いっそ、町人だったら)  と、羨ましさを感じた。  いや、違う。こんな時勢に生まれさえしなければ悩まずに済んだのだ。  世の中は、風雲急を告げていた。外国船が相次いで来寇し、幕府はそれに毅然とした態度を示せないでいる。そうした事態の中で、国を憂う者が尊皇攘夷と言い出し、朝廷を巻き込んで幕府と激しく対立しているのだ。  そのような動乱を前にして、北部九州の怡土藩も無関係ではいられず、藩内にも中央の対立が波及していた。 (この騒ぎのせいなのだ、全て)  父は佐幕に付き、楊三郎の父が勤王に付いた。それが、今まで出世競争だけであった両家の争いを、より一層ややこしいものにし、結果として楊三郎との交流を禁じられる仕儀に至った。 ◆◇◆◇◆◇◆◇  睦之介の屋敷は怡土城の傍、大番丁(おおばんちょう)にある。古くから原田家に仕える大組格の上士が住まう、閑静な武家地だ。     
/206ページ

最初のコメントを投稿しよう!