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The basic point of view.
「気を付け、礼」
今日もホームルームが始まる。
2‐5。それが、僕の在籍するクラスだ。
10月に入り、だんだん過ごしやすくなってきた。
落ち葉も少し目立ってきたが、それはそれ。
歩く際に足元が不安になるだけで、気に留める必要はないだろう。
思案に耽っている間にも、着々とホームルームは進んでいく。
僕はそれを聞き流しながら、秋風の心地良さを感じていた。
「起立、礼」
そうこうしている内に、勝手にホームルームが終わった。
お茶でも買いに行こうかと、カバンに手を伸ばしたその時、
「おい、高島。後で俺の所に来い」
担任に急に自分の名前を呼ばれ、心臓が止まるかと思うくらいドキリとした。
「はあ……」
杖を手に持ち、それに体を預け立ち上がる。
担任の所へ行くと、一緒に職員室にくるよう促された。
職員室の前で教師が急に止まった。
「立ち話でも構わないか?」
「はい。でも手短にお願いします」
僕は壁に体を預けながら、担任の話に耳を傾けた。
「いや、実はだな。明日、ウチのクラスに転校生が来るんだよ」
「はあ……」
曖昧に返事する。
「それで、お前の隣に席を持って来たいんだが、構わないか?」
自分のクラスは最後で、しかも他クラスより人数が数人少ない。
一番後ろで席が一人だけ飛び出している僕の隣に、転校生の座席を持ってくるのは、なるほど、確かに妥当だ。
「分かりました」
「そうか。じゃあ、明日からその子と仲良くしてやってくれ」
担任のその発言に、僕は微かな違和感を覚えた。
「先生、転校生って女子なんですか?」
「さあ? 楽しみにしといた方がいいぞ、そういうことは」
「そうですか。では、失礼します」
「おう、時間無いのに付き合わせて悪かったな」
職員室を後にする。
授業間近の生徒が消えた廊下には、自分の杖をつく音だけが響いていた。
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