お見通しの神様

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ある時の夕方の木漏れ日に紛れていたら、部屋の中の君と目があった。風のイタズラか、木漏れ日はさっと取り払われて、僕の姿が露になった。 小さな歩幅で、案外しっかりした足取りの君がよちよちと窓辺へ近付く。透明なガラスを叩いて、外の世界をキラキラした大きな瞳に写していた。 その中に僕が黒い点となって写っているのを、僕自身が見てしまい、どれだけ強く窓を叩かれてもピクリとも動けやしなかった。 「…………」 君の部屋と外の世界を遮るガラスは、君の声を僕に届けてなんてくれない。"あ"の形に開いた君の桜色の唇は、何度も何度も何かを言いたそうに開いては閉じ、開いては閉じる。 そのうちに、君はびくりとして部屋の中へ振り返った。扉がノックされたんだろう。君の声は僕が思うものより大きいのかな。 扉を見つめる君の後ろ頭を見つめてから、そっと木から飛び降りた。扉が開き、昨日来たばかりの世話係が君を抱き上げ、君がまたこの窓の外を振り返る頃、僕の姿はもうない。 また明日ね、と伝わらない別れの言葉を木の下で一声。僕は夜を明かす寝床へ帰っていく。
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