三章 閃光

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「先生、僕、売れるかどうかもわからないのに」  不安気に笑いながら満作が弱々しく言った。 「志しのことを言っている。いいか、その世界で一番になれ。その為にはどうすればいいか、頭を使え。お前は賢い。お前が一番で居続ければお母さんも誰もお前に手は出せない。ずっと表舞台にいろ。居続けろ。走り続けろ」  物静かな祖父がいつになく真剣に話しかけていた。満作の境遇を祖父なりに心配していたし心痛めていたのを満作も私も知っていた。 「わかった」  満作が真顔で言った。  寒い時期だった。私は高校受験を控えていて、受験勉強の合間の休憩で居間にいた。私はストーブのやかんのお湯でお茶を淹れて、三人でしみじみ飲んだ。人付き合いのあまり得意じゃない私が、いつの間にか満作にだけは気を使わずにいられた。  それがこの三人で過ごした最後の夜になった。
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