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四章 鎖と青の洞窟
私が中学二年生の時の秋だった。
毎日のように入り浸っていた満作が、道場にも家にも顔を出さない日が三日も続いた。
変な胸騒ぎがして学校の帰りに彼の家へ様子を見に行った。
満作の家は私の登下校の通り道にあって、自転車通学だった私はいつも何となくそこを通る度に、その小さな古い平屋の一軒家を気に留めていた。いつも野良猫が家の周りに数匹いた。時折おばさんが追い払っていたり餌をあげていたりしていた。
その日は不思議なことに猫の姿が一匹もなかった。
私は玄関前に自転車を止めて、ちょっと様子を窺ってみた。家にインターホンはなく、ガラガラの引戸の曇り硝子からは薄暗い室内がうっすらと見えただけだった。
「すいませーん」
恐れながら私は大きな声で一度だけ言った。
返事はなく、私は少し安堵してまた自転車に乗って帰ろうとしていた。
その時、ドシンと家の中から大きな音がした。私は自転車を乗り捨てて、今度は引戸をどんどんと拳で叩いた。
「すいませーん、大丈夫ですか?」
やっぱり家には人がいた。この胸騒ぎは本物だった。
玄関の戸には鍵がかかっていて、私は家の周りを見渡して窓を探した。直ぐに台所の窓が半開きになっているのを発見して靴のままそこをよじ登り家の中に侵入した。どうしてそんな映画の主人公の様なマネができたのだろう。頭が真っ白で、妙に心だけが重かった。この胸騒ぎが何なのか、私は早く知りたかった。
キッチンと二間の和室があるだけの狭いお家の真ん中に、答えはあっけなく、彫刻の様に静かにそこにあった。
「どうして」
私の心の声はふと漏れ出ていた。
その強い閃光はまっすぐに私を捉え、刺されてしまいそうな程だった。
台所の窓から差し込んだオレンジ色の夕日に照らされて晒された満作の首は、部屋のちょうど真ん中にある柱と鉛色の鎖で繋がっていた。ぐるぐる巻きにされたその首や柱には所々に南京錠がかかっていて、鎖は絶対に外せないよいになっていた。更に顔や手や足はガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
私は、彼の口に貼ってあったガムテープを一思いに剥ぎ取った。
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