一章 あほうどり

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 六歳にしては少し大人びた子供だ。日本語と少しの英語とイタリア語と台湾語が話せる。それでも言葉が通じない時は、ボディランゲージで自分の言いたいことはある程度伝えることもできる。世界には様々な通貨があってそれぞれに貨幣価値が違うこと。物を買うにはお金が要ること。そのお金を得る為に人は働いたり、恵んでもらおうと他人に乞うたり、盗んだりする。この世はお金が支配していること。世知辛いが、でもそれだけでもないこと。彼はこれまでの経験でそういうことをもう知っている。そんな彼が、この生活やこの母親について疑問を抱くのは当然と言えば当然のことだ。 「ママはこうちゃんと色んな所で楽しく暮らしているだけ。その土地土地でこんな風に空を見上げて、美味しいものを食べて、ジョギングして、本を読んだり写真を撮ったり、語学の勉強もしたり。でもそうしていたら、なんでだろうね。じゃらじゃらとお金が降って来るの」  私は言った。  殆どが真実だった。  私は嘘をつくことに既に疲れていて、途方に暮れていた。 「うそだぁ。そんなのあほうどりみたいだ」  最近生き物博士のこうちゃんが言った。 「あほうどりってそんななの?」 「うん、ほんにかいてあった。あほうどりはそらからエサがふってくるとおもっているって。けいかいしんもあまりなくて、すぐにんげんにつかまるからあほうどりっていうんだって」
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