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作られたドラマの中の彼と、私の知っている満作のギャップに打ちのめされて、テレビで彼が歯の浮くようなセリフを言うたびに一人で爆笑していた。
満作もこんな風に頑張っているのだから、私も大丈夫かもしれない。
そう思えたら、けたけた笑いながら涙が流れてきた。
お葬式の夜以来、満作は仕事の合間にまた家に時々来るようになった。
歳に似合わない高級外車を乗り回して、サングラスをかけて、ニットキャップを目深に被り、芸能人丸出しのそのままで東京からおかしな時間にやって来た。幸い、山の中腹にポツンと建っている我が家はご近所さんの目も気にすることなく居やすかったようだった。家の前には祖父が大事にしていた二百坪程の畑があった。畑の横に雑に車を停めると大体満作は、家の玄関からは入って来ず、畑と母屋の庭の間を潜り抜けた先にある古びた剣道場へまず向かって行き、中に入って一人で黙祷していたり寝っ転がったり竹刀を持って素振りをしていたりしていた。彼がここで一番居心地が良く大好きな場所はどうやら道場らしく、私は心ゆくまで好きにさせてあげた。そして気が済んだら大体縁側からのそっと猫みたいに入って来た。
二時間くらいかけて東京くんだりからやって来て、一時間もしないで帰って行くこともあった。お酒を飲んでいる時は現場マネージャーさんが車を代行して夜中に来ることもあった。
そんな感じで来るわりに、ここでの時間の過ごし方はごくごく地味だった。祖父の残した畑の仕事を手伝ったり、さぼって虫を探していたり、縁側で黙々と一人将棋をしていたり、私の作る味気ない田舎料理を黙って食べて帰って行った。特に笑いがおこることもなければ、芸能界の華々しい話をしてくれるわけでもなかった。
だけど、なぜ来るのかなんて聞かなくてもわかった。
あの日以来、場所はきっとここ以外にあり得ない。
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