七章 約束

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 ちょっとモテすぎだったけどね(笑)  百々、男前はやめておいた方がいいよ。私に似て寂しがり屋なあなたです。  でもとにかく、凄く凄く好きな人と結婚して下さい。決して後悔はしないように。そしてきっと子供も産んでね。  子供って不思議だよ。赤ちゃんの時に可愛いなって思うでしょ?ちょっとずつ大きくなっていろんなことできるようになって結構成長してくると、この「可愛い」がちょっとは薄れるのかなって思っていたの。でも違った。どんどん、どんどん「可愛い」の面積?体積?が大きくなっていってね、もうずっと、右肩上がりなの。もっともっと好きになってゆく。  きっとその子供がお婆さんになってもお爺さんになっても、母の愛は永遠なんだと思います。  それは私が百々から教えてもらったこと。  本当は百々の傍にいて、色んなことを伝えたいんだけどね。どんどん日常のことも出来なくなってきているようです。今日は調子いい方なので、ラストチャンス!と気合を入れて、百々にこの手紙を書いています。だから誤字脱字はご容赦ください。  調子悪い方の私のことは、あなたが一番知っているよね。  本当はね、これが病気だったと分かってほっとしたところもあってね。  あの情緒不安定な波は、私にすら制御出来なかった。色んなものを呪って、同じ価値観以外を受け入れられない。暗い感情のループ状態にいて、少し射し込んでいる光すら疑う。あの鬱状態は、この病気の発症前の前兆のようなものだったようです。体ごと、心ごと、細胞レベルで合点がいきました。  あなたにも沢山酷いことを言ったり、したと思います。後半は特に酷い母親でした。あんなにも酷かったのに、その全てを忘れていくなんて、本当にごめんなさい。  ママは今、若年性アルツハイマーという病気になっていて、まあまあ進行しているのかな、一応薬を飲んだりとかしているけど、記憶が突然とんだり、今まで出来ていたことが徐々にできなくなっていたりしています。あなたの写真を見ても誰だか忘れていることもあるそうです。  悲しいけれど、ママはこの施設で暮らしてゆきます。  訪ねてなど来ないで下さい。  あなたを愛したことも、あなたを虐待したことも、全て忘れ去ります。  あなたの心や体には癒えることのない傷が沢山あるのにね。  罰が当たったのね。
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