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その頃の満作は時々母屋にも来ていたが、ちゃんと夕ご飯までには家に帰って行った。
おばさんと満作の間に何があったのかは詳しく聞いていないが、その自転車での遠出は、おばさんが監禁罪で警察に捕まる二年ほど前の出来事だった。ひょっとしたら満作の方が私よりも壮絶な日常の中で、私と同じようなことや私より暗いことや重いことやドス黒いことを考えていたのかもしれなかった。そこから脱け出したくて幸せの瞬間を探していたのかもしれなかった。そう、ちょうど覗いたストローの細い細い穴から、きらきらと輝くものを探すみたいに。
私は知らずに、いや、少しは嗅ぎ取っていて、だから満作にはどんなことでも言えたのだと思う。
「おじいちゃん、もうおじいちゃんなのに私なんて押し付けられてさ。おじいちゃんのことは信用してもいいよって言われても、年寄りだしこれから何年一緒に居られるんだろう。こういうこと考えるのおかしいのかな。おじいちゃんまだ全然元気なのに。でも私の目の前から、突然お父さんが居なくなって、お母さんも居なくなって、って言っても死んでないけど、死んでもないのにもう一緒に居られなくて。おじいちゃんが居なくなったらどうしようと思うと怖いんだ。信用したり、大好きになって、それなのにまた失うのが怖いんだ」
私は言いながら気付くと泣いていた。
「早く大人になればいい」
満作が口を開いた。
「それでもそんな日が来たら、泣き止むまで一緒にいてやる」
そう言って、ストローの先をこっちに向けて覗き込んだ。
その穴からは、私はどんな風に映ったろう。
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