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「何のひねりもない名前なんだね」
私は笑った。
「パパのしごとはなに?」
本当はこっちが聞きたかったのかとその時理解した。
だから私はその質問を真正面から受け止めて、きちんと答えてあげることにした。遂に、その時が来たのだ。
「スーパーアイドル」
「・・・はぁ?」
妙な間がおかしかった。
「スーパー?アイドル?」
こうちゃんはぎこちなく言った。初めて聞く言葉なのだから無理もない。
「人が喜ぶような格好をして、歌を歌ったり、演技をしたり、テレビに出たりする人よ」
「パパ、テレビに出てるの?」
こうちゃんが目を丸くした。
「日本ではね」
「だから日本にいる時は僕にあんまりテレビを見せてくれないの?」
「うん、ごめん。世の中の人たちには内緒にしているの。パパとママの間にはこうちゃんっていう可愛い息子がいるってこと」
「なんでないしょなの?」
「パパが結婚したり、子供を作ったりすることで悲しいと思うファンの人が沢山いるの。パパはそういう人たちを喜ばせる為に働いているからね。例えば、ミッキーマウス」
言いながらちょっと吹き出してしまった。
「ミッキーは、絶対にどっからどう見てもミッキーだよね。突然ぬーんと中から人が出てきたりとかしないよね。ちゃんとミッキーだよね」
「でもあれは着ぐるみだよ」
「そう、でもあの着ぐるみを脱いだところを誰も見たことはないでしょ?パパもそんな感じのお仕事なの。着ぐるみは着ていないけど守らなければいけないものは同じ。でもね、本当はパパもママも世界中に叫びたいくらい嬉しいのよ。こうちゃんが生まれてきてくれたことが。でもできない。ごめんね。でも真実は一つよ。あなたはパパとママの子供」
「じゃ、ぼくもいわないよ。かぞくだけのひみつだもんね」
「ごめんね」
「なにが?」
「ママ、こうちゃんがこのこと知ったら面白がってお友達とかご近所さんとかに言っちゃうのかなって心配していたの。ごめん」
「まったくもうママったら」
「うん、日本に帰ろう。おじいちゃんのお家に帰ろう。それで二人でテレビを見まくろう。テレビでパパも見よう。見て笑おう。衣装とか歌とかダンスとかちょっとダサくて、猫被ってて面白いんだから」
「あのパパとはぜんぜんちがうの?」
「全然違うよ」
私は言った。全部言ったら心が軽くなったような気がした。
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