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十章 月明かりのフラダンス
台湾の天母というエリアにある日本人学校に通っていた時、仲良しの友達がいた。香子はお父さんの仕事の関係で世界を転々としていて、台湾では小学一年から四年までの四年間を同じクラスで過ごした。なぜか彼女とだけはこれまで一度も音信不通になることがなく、クリスマスカードや年賀状や引っ越し先のお知らせは勿論、それ以外にも文通やメールや時には電話で結構まめに連絡を取り合っていた。取り合っていたというか、向こうから連絡が来て、それに対応していたという方が正しい。夏休みには私が祖父と暮らす古びた家に何度か泊まりに来たこともあったし、その度に男子ばかりの剣道教室に一人潜り込んで一緒に剣道を習っていた。
縁があるというか、彼女の筆まめさ、真っ直ぐな行動力、人徳の賜物だろうと思う。
香子は今、ご両親とハワイで暮らしていて、ジムのトレーナーの仕事をしていた。
こうちゃんが生まれて一カ月が過ぎた頃、私たちはハワイへと移り住んだ。渡米手続きは全て梶原さんがしてくれたし、ワイキキビーチからほど近いエリアに事務所が所有しているコンドミニアムがあり、暫くの間そこで暮らす手配もしてくれていた。
ホノルル空港には香子が迎えに来ていた。サングラスを掛けていたが直ぐにわかった。長い小麦色の足をむき出しにした短パンスタイルは健在だったし、綺麗なレモン色のアロハシャツが派手な顔立ちの彼女によく似合っていた。
私はこうちゃんを新生児用の抱っこひもで抱っこして大きなキャリーバックを転がしながら香子の所へ駆け寄って行った。
「ようこそハワイへ」
香子は満面の笑みで私とこうちゃんを出迎えてくれた。ちょっと太くてよく通る声が懐かしかった。彼女の声には生命力が漲っていて、いつでもパワフルだ。久し振りに見る香子は更にパワフルになっていた。少しだけふっくらとしていて、少しだけ優しいニュアンスが加わったような、温かいオーラのようなものに包まれているような、そんな印象があった。
「車で来てるから送ってく、場所どこだっけ?」
私のキャリーバックを代わりに転がしながら言う香子に、私は書いていたメモを見せた。
「ハワイにはどれくらい居られるの?」
香子が聞いた。
「分からない。まあ暫くはいると思う」
私は答えた。
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