十章 月明かりのフラダンス

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 こうちゃんはさっきおっぱいを飲んで熟睡中だった。  こうちゃんはよく寝る赤ちゃんだった。ミルクを飲んで排泄して寝て、起きたらまたミルクを飲んだ。その繰り返しの中でどんどんぷよぷよと可愛くなっていった。  二人で寄せ鍋を食べた。昼間にこうちゃんと二人で日本食の多く揃っているスーパーへ買い出しに行って、土鍋やガスコンロやキッチン用具も沢山買い込んで、こうちゃんの乗っているバギーの下の荷物入れがパンパンになる程詰め込んで、取っ手のところにも色んな買い物袋をぶら下げて帰って来た。酒豪の香子の為にお酒も買い込んだ。 「私は授乳中でお酒飲めないけど、ビールとか買ってるよ。飲むでしょ?」  私が勧めると、 「ごめん、私も今飲めないんだ」  と香子が言った。 「実は妊娠してるの、今、五カ月」  一瞬、誰の?と思ったけれど、自分のことを棚に置いといて何を言っているんだろうと直ぐに思い直した。私の葛藤をよそに香子は答えをさらりと言った。 「ま、私の場合は代理出産なんだけどね。産まれたらお腹の子は、この子の両親の元に戻ることになっている。今は、私のお腹を貸してあげている状態ね。だから今はトレーナーの仕事もしてないし、毎日暇なの。百々がこっちに来てくれて凄く嬉しい。いろいろ教えてね」  だから空港で久し振りに見た時どことなく印象が違ったのか、と私は妙に納得した。  香子は熱々の豆腐を口に入れてはふはふしていた。火照った顔がとても可愛かった。天母の日本人小学校に通っていた頃の香子がふと蘇ってきて嬉しかった。年をとっても、人は自分が思っているほどさほど何も変わっていないんじゃないかと思える。彼女はそうだ。ブレない。信じられる数少ない友達だった。  私が驚いたのにはもう一つ理由がある。  香子は女性だけど、恋愛対象も女性だったからだ。
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