二章 港

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 でも台湾は違った。ここには血の繋がる人間がいる。そう思うだけでその地と足がピタッと繋がっている気がする。大地の一部になったような気がする。  こうちゃんはさんさんと降り注ぐ日光に目をしかめながら、無心になって、飽きもせずにずっと水平線を見続けていた。その目は鋭く、海にも負けないくらいキラキラと光っている。笑顔は生命力そのもので、清くまだ幼い。まっさらだ。  私は彼のことを生まれた時からもう大好きで、どんどん好きになっていって、これからも多分ずっと好きで、もう少し大きくなって反抗期を迎えても、多分それすらも変わらず可愛いと思える自信があるなんて、こんな風に無条件で好きなものは私の人生には今まで一つもなかった。普遍的なんて言葉はあたまから疑ってかかるような、そんな猜疑心の塊の、あまのじゃくな女の元へやって来たこの小さい王子様は、私に新しい世界を見せてくれた。  こうちゃんは大分の別府で生まれた。鉄輪温泉で旅館を営んでいる老夫婦のところで少しの間お世話になった。それからハワイで暫く暮らし、台湾、カプリ島、沖縄、プーケット、小旅行を入れればもっとあるがとにかく場所を転々としながら気ままに二人きりで暮らしていた。楽しかったし、それはそれでとても貴重な体験だったけれど、幼馴染や故郷がないまま育つ息子が何となく不憫にも思えた。親の都合で連れ回していたが、そろそろ自身の足で、学んだり友達を作ったり楽しいと思える事を見つけたり、成長の為の次のステップが必要な時期に来ていた。半年もすればこうちゃんは小学校に入学する。  台東駅に降り立ち、富岡港までタクシーに乗った。20分程で港に着いたらタイミングよく緑島行きのフェリーに直ぐ乗り込むことができた。 「もうすぐじいじのうちだ」  フェリーの窓側の席に座り込むと、こうちゃんが海を見ながら嬉しそうに言った。  緑島は夏に観光客がどっと押し寄せるがリゾート地だが、10月ともなると船に乗り込む人も疎らだった。父のペンションも10月から2月までは休業していた。 「ライさんのチャーハンが早く食べたいなぁ」  こうちゃんは言った。
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