二章 港

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 ライさんは父の再婚相手の女性で、私より五歳年上なだけだった。台東の少数民族の出身で、凄く美人というわけではないけれど、聡明で、くっきりとした二重の大きな目には意思の強さと寛容さとカラッとした明るさがあった。そして、長い放浪生活に疲れた時、父に会いに行くと、いつも私やこうちゃんを快く迎え入れてくれた。  父が母の次に妻に選ぶなら、お願いだからこういうタイプであってほしいという私の希望にかなった、しっかりしたいい人だった。いい大学を出て仕事もバリバリできるのに何故か女の人を見る目だけは壊滅的になかった父だったので、そこだけが娘ながらに心配だったけれど、フェロモン系でも子猫ちゃん系でもなく、地に足の着いた彼女に会った時、とても安心したのを憶えている。  それに彼女は本当にとても料理が上手だった。チャーハンだけに限らず、彼女の手が作り出すあらゆる台湾料理のファンはこうちゃんだけではなかった。数多くある緑島の民宿の中でも料理が美味しいと評判で、毎年リピーターが後を絶たない。  50分ほどの乗船だが、波が高くて私は船に酔っていた。窓を見ると緑島の港がもう見えていた。ハイシーズンではないものの旅行客を迎えに来ている民宿の人たちの間で、腕を組み立っている細い男の姿が目に入った。ちょっと老けて、ちょっと日に焼けていた。  会うのは1年ぶりだった。  この人の人生には、私だけの父親だった時代がある。  船酔いしながら、そんなことをなぜだかふと思ってしまった。 「じいじだ」  私より数秒遅れでこうちゃんが気づいて興奮しながら指をさしていた。  フェリーに乗って直ぐに父に連絡しておいた。父は車で迎えに来てくれていた。  港に着いて、やっと新鮮な空気が吸えて、私はすぐさま生き返った。吐くところまでいかなくてよかった。こうちゃんは私が手を放すと、じいじの胸に飛び込んで行った。 「いらっしゃい」  父が目尻を下げて優しく言った。
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