二章 港

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 車でペンションに着くと、休業中だからお客さんは誰もいなくてガランと静まり返っていた。  ペンションは父が以前ここで民宿をしていた人から安く買い取って、父とライさんでリフォームしたもので、洋風のこぢんまりとした建物だった。二階部分の三部屋がツインの客室となっていて、各部屋にシャワールームやトイレもついていて、父とライさんの居住空間は全て一階にあった。一階のダイニングとリビングに面したテラスからは一面に海が望めた。その真ん中にベンチ型のブランコが置いてありそれにいつまでも座ってぼうっと水平線を見るのが好きだった。更にキッチンからも海を見渡すことができた。青い空に白すぎる壁がとても映えていて、干している洗濯物でさえ絵になって見えた。  玄関のドアを開けて入って行くと、奥の台所からガシャガシャと音がして中華料理のいい匂いがした。 「雷、我来了」  こうちゃんが言うと、ライさんが奥から出てきて笑顔で出迎えてくれた。 「いらっしゃい」  1年ぶりのライさんは、見るとびっくり、お腹がふっくらとしていて妊婦さんになっていた。 「おめでた?」  私は言った。 「はい。今7カ月よ」  ライさんは嬉しそうに言って、私の後ろに立つ父と目を合わせて笑った。 「今ご馳走作ってるから、待っててね。こうちゃんの好きな蟹のチャーハンも作るからね」  そう言って、ライさんはまた慌ただしく台所へ消えて行った。こうちゃんはライさんについて中へ入って行った。 「おめでとう」  私は父に言った。 「ありがとう」  父は照れくさそうにしていた。  父が今幸せそうで、娘としてはそれが何より嬉しかった。母と一緒にいる時の父は息をするのも苦しそうで、周りの空気が一枚のガラスでできているみたいにいつも張りつめて見えていたからだ。  きっと父と母はどこかでボタンをかけ間違えただけだ。  誰が悪いのでもなく、あらゆる現象に家族全員が翻弄されて嵐のように巻き込まれ、気付けば一人ひとりがそれぞれ別々の場所に吹き飛ばされて着地した。
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