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一章 あほうどり
からっと雲一つないプーケットの空に、そのコンドミニアムは煙突のように頼りなげに細くのびていた。最上階のテラスからその空を見上げると、遮るものが何一つなく、遥か彼方であやふやに存在している。ここは宇宙の一部なのだと実感する。空も海も山も風もこの身もこの子も何もかも、ちゃんと繋がっていて同じうねりの中で、或いは曼荼羅のような世界観で、きちんと意味を持っている。
逆に言うと、そう思えることのできる物件でなければ長く住めなかった。
その感覚が何より重要で、必要だった。
大したことではない。駅から近くなくても、病院やスーパーやコンビニがすぐ近くになくても構わないのであれば、そういった物件は、日本の地方都市や海外のリゾート地でとても簡単に見つかった。
アリか、キリギリスかと問われれば、私達親子は間違いなくキリギリスの方だった。時間は有り余り、そして優雅に流れている。
南国の青すぎる空をバックに、こうちゃんは唐突に言った。
「ママはなにをしておかねをもらっているひとなの?」
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