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毒を食らわば皿まで
上司から指示されたのは先方の要望どおりに死んでこいというものであった。
死んでこいというのは気持ちの問題だったり比喩ではなく、文字どおり「死」ぬことを命じられたのである。
そして目の前には美味しそうな饅頭が先方から差し出されてている。
担当者は不敵な笑みを浮かべながら、私が饅頭を口に入れるのを待っている。
当然のことながら、饅頭には毒が含まれている。
上司から聞いた話だと、シアン化カリウムという毒らしい。
聞いたことはないかも知れないが、所謂青酸カリだ。上司は楽しそうにそう話していた。
わざわざ毒を食べる身にもなって欲しいものだとは思うが、これも仕事だ。
「よろしければ、お茶をいただいてもよろしいでしょうか」
担当者は毒を食べさせるのに夢中で、お茶を用意するのを忘れているようだ。
はっとした顔で席を立つと、温かいお茶を入れた湯呑みを運んできた。
「どうぞ」
軽く頷き、お茶を一口含み、饅頭を口に放り込んだ。
ムシャムシャと咀嚼し、お茶で饅頭を流し込む。
担当者は目を丸くして驚いている。
「本当に大丈夫なのですか?」
「ええ、もちろん」嚥下しながら答える。
「こんなものでも大丈夫ですよ」
饅頭が載せられていた小皿を取り上げて、前歯で噛り付いた。
陶器が割れる耳障りな音が響く。
破片を奥歯ですり潰して飲み込んで「ごちそうさまでした」と言って頭を下げた。
担当者は恐怖のあまり椅子から転げ落ちている。
食糧が不足する現在。それに対応するために人工的に進化させられた存在が私である。
どんなものを食べても問題ないようにと歯と顎、消化器官が通常の人間とは別物になっている。
とはいえまだ実験段階のため、歯茎から血は出るし、腹はチクチクと痛む。
早く改善してもらいたいものだ。
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