ロボットについて

4/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「ダメだダメだ。すぐに心臓のディスクを入れ替えるべきだ。何をそんなに躊躇う?」 「旦那様、心臓と身体と脳が一体化している人間の身体と違って、私どもの身体は交換すれば済みます。私も、旦那様が子供の頃にうっかり私の腕を折られた時はなんとも思いませんでした。でも心臓を変えるのは嫌なのです。旦那様が初めて私を『ブース!』と言った時よりもっともっと嫌なのです」 「子どもの頃の過ちは謝るよ…。すまない。でも心臓も腕も、君たちにとっては部品を変えるだけのことだろう?」  私が再度問いかけると、キャシーは一生懸命答えを考え私の理解を得ようとする。どうにもその人間くさい必死さが、媚びて物事を誤魔化す子どものようなずる賢さに見えてしまって私は苛立ち始めた。 「ロボットは人間に仕えることが第一ですが、その為に自分の身を守る責務があります。恐らくその責務に抵触するため、こんなにも抵抗感を感じるのだと思います。うまく言葉にできないのですが自分が自分でなくなってしまうような。感覚が変化してしまうと考えると、恐ろしくて…」  いい加減私はこの問答をするのにうんざりして、声を荒げる。 「君の身体は機械なのに何を訳の分からないことを言っているんだ!命令だ、君は心臓のディスクを交換するんだ。いいな!?」  ロボットたちは「命令」の言葉の後に続いた発言に、人を傷つけない限り必ず従う。そんなことしなくても大抵の事は聞いてくれるので、私はこの言葉を初めて使った。  キャシーは悲しそうに、私の言葉に頷く。 「わかりました…。明日ディスクを交換してきます。せめて今日一日このままの心臓で居させてもらえませんか?」  キャシーの嘆願を私は苛立ちのあまり一蹴する。 「駄目だ。そう言って先延ばしにするつもりだろう?私に紅茶を淹れたらすぐに交換しに行くんだ!いいな!?ちゃんと証明書ももらってくるんだぞ!?」  これだけ嫌がっているならば修理したフリくらいしかねない。そう考えた私の疑いを見透かしてかキャシーは酷く落ち込んだ様子を見せてから私に頭を下げた。 「わかりました。すぐにお茶を淹れて、交換してきます」  キャシーは台所へ引っ込んだ。ようやく美味しい紅茶が飲めると私は読書を再開した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!