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星歴一〇一〇年、春。小国ディオールでは、水仙の花が見頃を迎えていた。
魔法の道具で何でも願いが叶う店『翡翠屋』を開いて数日後。初代店主ゾフィール・ウィッドは退屈していた。カウンターで頬杖をつき、そばに座る少年に話しかける。
「客が来ないね、ナイトメア」
「うん、閑古鳥が鳴いてるね」
左目に眼帯を付けた少年は、客用の椅子をカウンターの横に置いて店主同様退屈そうにしている。
「お店を開いたはいいけれど、このままでは生活費が稼げないね。道具たちも騒いでいるし……」
言いながら、ゾフィールはちらりと棚を見た。手作りの大きな棚には小箱や鋏や本が詰められている。一見普通の道具たちに見えるが、ゾフィールは強い力を感じていた。
ゾフィールが両親から受け継いだ曰く付きの道具たちは、日々彼の手から逃れようと反発してくる。店の外に出ないように強力な結界を張ったまではよかったが、このままではゾフィールの身が持たない。
「『招き猫』は眠ったままだね。目を開けばお客が近くにいるんだっけ?」
少年はカウンターにある、異世界の島国から手に入れた道具へ視線を向ける。片手を上げた猫は気持ち良さそうに目を閉じていた。
「ナイトメアは本当によく知っているね。……そうだよ、それは所有者が求める者を招く。人間も、動物も、それ以外の種族も関係ない。猫が目を開ければ所有者が必要としている者は近くにいる。そしてそのまま呼び寄せるんだ」
そんなことを話していれば、突然白い招き猫の像がカッと目を見開く。ナイトメアは顔を扉に向けた。
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