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「お客さんだね。……でも随分と小さいみたいだ。僕は姿を消しているから、店主らしく振る舞ってみなよ」
パチンと指を鳴らすと、ナイトメアは椅子ごと消えてしまう。気を使って客間に椅子を戻したのだろう。
ゾフィールは小さな客のために扉を開けにいく。カランコロンと鈴の音とともに現れたのは、右目に灰色のぶちがある真っ白な兎だった。ゾフィールはしゃがみこみ、兎に手を差し出す。
「いらっしゃい。ここは翡翠屋。対価と引き換えに願いが叶う魔法の道具屋だよ」
兎はシャァッ! と威嚇すると、ゾフィールの手を噛んだ。……手を、噛んだ。
次の瞬間、兎は見えない力に吹き飛ばされて向かいの家の壁に激突した。
「申し訳ございません、お客様。当店、暴力ならびに怪しい行動をするものには罰を与えますので」
兎は目を回している。無理もない。店内には闖入者の撃退用の魔法をかけているのだから。
仕方ない、とゾフィールは兎を風魔法で持ち上げて店の中に入れた。……噛みついたとはいえ、彼は今とても暇だった。さらにいえば、兎は腰に金貨が詰まった袋を提げていたのである。
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