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※
ぼんやりと歪む森の中に少女が見えた。
「サギ!」
自分を見つけて喜ぶ存在は、目の前の少女くらいしかいない。
抱きしめてくれる少女の腕には、いくつもの青い痣。顔をあげれば、目元が赤くなっていた。
「あなたと一緒にいると安心するの」
そうなのか、と考える。森から出ても戻ってきてしまう少女。家族も友人も連れず、いつも一人ぼっちで森に入る。
「大好きよ、サギ。ずっと一緒にいたいわ」
いつか見た少女との思い出。あの時、少女の涙から塩辛い味がした。
少女の顔から目を離し、静かに抱きしめられる。ニ、三度頭を撫でられていたが、破裂音とともにそれは止まる。少女の手が離れる。
ぱたりと少女が倒れる。胸から血が流れ、少女の肌が白くなっていく。
死んでしまうのか。そんな問いも虚しく、少女は目を見開いたまま動かなくなった。
辺りを見れば、森を駆け回る少女や木陰でうたた寝をする少女がいた。兎はその欠片に触れようとしたが、近づくと消えていく。
気がつけば少女の死体も消えていた。兎は項垂れた。
どうしたら彼女に会えるのだろう。どうしたら同じ時を過ごせるのだろう。
死んでしまうわけにはいかない。あの子がもう一度、自分と巡り合うのを待ちたい。どんなに長い間でも。
泣いてしまうあの子のそばにいてあげたいのだ。
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