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「この指輪を友達につけなさい。もう一度会うことができますよ」
男は小さな指輪に紐をつけると兎の首にかけた。一つは赤い石が、もう一つは青い石が填められていた。
「つけ終わったら、もう一度この店に来るといいですよ。あなたが友達を待てるように姿を変えてあげます」
サギは首元の指輪を見下ろした。手で掴もうとしても滑った。……指輪を掴めない。男を見上げる。森までついてきてほしいと訴えてみるが、彼は首を横に振った。
「私は商品を売るだけ。頑張って渡してくださいね」
サギは森に戻ると、カラスが少女の肉を喰らおうとしていた。サギはぎゃあぎゃあとなく彼らを睨みつけ、少女の崩れかけた腹の上に乗った。そこで紐を噛みちぎると少女の首元に指輪を落とした。
サギはもう一度店に戻った。男は店の扉を開けて出迎えてくれた。
「指輪、渡せましたか?」
サギはコクリと頷く。男は兎を抱き上げるとカウンターにのせた。
男は薬棚から一つの小瓶を取り出す。淡いピンク色で、暖かい色だった。
「これを飲めば、望む姿になれます。……ただし」
男は手を伸ばす兎の鼻に人差し指を突きつけた。
「あなたの願い通りにはいかないかもしれません。もう二度と口を開くことも、ものを見ることも、声を聞くこともできなくなるかもしれない。彼女と出会うことができても、自分の意思で自由に動くことができなくなるかもしれない。代わりに少女との思い出を持ったまま待つことができます。……ここまで聞いて、あなたは姿を変えますか?」
兎は目で訴えた。「臨むところだ、やらせてくれ」と。男は小瓶をカウンターに置く。
「猟師に仕返しをすることもできますよ。それはやらなくていいですか?」
兎は考えた。リアの森で猟師が狩りをするのは、自然の節理だ。リアの森はディオールから近く、鹿や兎は食用に狩られる。サギも気を緩めれば命を取られる。しかし彼らを責めることはできない。食べなければこの世界は回っていかない。少女が腕の悪い猟師の矢に当たったのは不幸で残念だが、それを理由に怒る気にはなれない。
サギはカウンターの縁に近づいた。仕返しはいらない。少女を待つことに決めた。
「変わりたい姿を思い浮かべてください」
兎は棚に並べられた小さな動物を見つけた。顔も足も丸い形をしていて、寸胴で、初めて見る姿だった。
あんな姿なら少女も軽くて抱きしめやすくて、喜びそうだ。そんなことをチラリと考える。
男は微笑んで小瓶の蓋を外す。兎が口を開く。その中に液体を注ぎ込んだ。薬は爽やかな甘さの後に苦味が広がった。
シュウシュウと音をたてながら兎の体が変わっていく。柔らかな毛皮はふわふわのフェルトになり、ルビーのような目は赤いボタンに変わり。手足は筋肉が消え、寸胴な丸いフォルムへとなっていく。
「…………素敵ですよ、お客様。とても愛らしくなりましたね」
男の目の前にあるのは、兎のぬいぐるみだった。ディオールにはまだない素材だが、棚に並んでいた商品を参考にしたのだろう。
愛する友人を亡くし、もう一度会うには永遠に近い時を生きるしかないと考えた兎は、朽ち果てない体を手に入れた。
「あなたのご主人がこの店に来る日がいつになるのか私にはわからないけれど……きみを見つけに来るまで置いてあげるよ」
兎のぬいぐるみはうんともすんとも言わなかったが、店主は大量の依頼料の一部をもう一つの依頼として引き受けた。
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