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レンガの道を歩いていた少女はふと、路地裏に古びた店があることに気づいた。屋根にかかった看板を見れば『翡翠屋』の文字。面白そうだ、と彼女は店に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
黒髪に紫水晶の瞳の若い店主が無愛想に答えれば、少女は真っ直ぐとある棚に向かった。それは少し日に焼けて黄色っぽくなった兎のぬいぐるみだった。
見た瞬間、ぬいぐるみと一緒に森の中をかけっこしたくなった。疲れたら木陰で一緒にご飯を食べたい。少女は迷わず店主を振り返った。
「店員さん、このぬいぐるみを買うわ! お代はいくら?」
店主はそっとぬいぐるみを棚から下ろした。少女に差し出し、小さく微笑む。
「お代なら、初代店主がいただきました。一緒に帰ってあげてください」
少女は目をぱちくりさせたが、すぐに喜んで店を出た。
「あなたに名前をつけてあげる! そうね……兎だからサギなんてどうかしら!」
兎の瞳が太陽を反射してキラリと輝いた。宝石みたいで素敵、と少女はぬいぐるみを抱きしめた。森の香りがする。
「素敵なにおい。あなた、森で生まれたのね」
千年近い時を経て、ようやく少女と兎は再会した。その後、彼女は死ぬまでぬいぐるみとともに過ごしたと言う。
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