初代翡翠屋

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「ねえ」  突然、天井から声が降ってきた。見上げれば、今にも落ちてきそうな天井を背景に、左目に眼帯を付けた少年が宙に浮かんでいる。  両親の亡骸と自宅を捨てて一年とまだ短いが、妖精の住処であるリアの森に捨てられた小屋に来客など来るはずもない。この森は人食い妖精も多く、魔法使いも入りたがらない。けれど少年は涼しい顔でニヤニヤと笑っていた。 「はじめまして。僕はナイトメア」 「少年、きみは私と同じではないね? 魔法使いにしては少し歪だ。その魔力の在り方も、魔法の使い方も」  まるで人間に大量の魔力を注ぎ込んで、無理やり魔法使いもどきにされたよう。実際、人間を魔法使いにすることはできる。その一つが、異世界の神が魔力を込めた宝玉を体内に取り込むことだった。ゾフィールも、この狭い空間の中で宝玉を一つ管理していた。  だがその魔法使いもどきという総称もそぐわないほど、ナイトメアは不思議な人物だった。 「うん。魔法使いじゃないから」  ナイトメアは子供らしく笑うと、小屋を埋め尽くす古物へ視線を移す。 「面白い物を集めているね。全部きみのもの?」 「一応は、ね。気になるなら触れてみるといい。きみの価値観が変わるよ」 「やめておくよ。それに触れたら、僕が変わってしまうから」  呪われた品々。恨みを込められた道具。神に執着し、その姿と垣間見る方法を記した書物。  どれもが生きとし生ける者たちへ影響を与え、人生を破滅させる。また、時に生者を殺すきっかけを与えてしまうものだった。所有者のゾフィールも触れたり使ったりするが、一歩間違えたら道具に使われてしまう可能性もある。  少年は地面に足をつく。十二、三歳だろうか。紫がかった黒髪は短く切り揃えられ、それと対比するように肌が白く小柄だ。彼は細い三日月のように口の端を上げ、ゾフィールを楽しそうに見る。 「ねえ。お金もない、未来もないきみに面白いことを提案してあげるよ」 「失礼だね。お金はなくても、ここで隠れ続けることができるくらいには未来はあるよ」  ゾフィールは何もない空間から、翡翠が埋め込まれた美しい白銀の杖を出現させる。魔力を込めれば、翡翠が淡く輝いた。
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