初代翡翠屋

4/6
前へ
/18ページ
次へ
 ゾフィールが得意とする魔法は炎。業火を放つ準備をすれば、ナイトメアは声を上げて笑った。 「ふふ、好戦的だね。威勢がいいのは嫌いじゃないよ。でもきみだって、ここで一生を終えられる未来が薄いことも予想できているんでしょう? 目くらましや結界を張っても僕に乗り込まれているんだもの。……いいから、聞いておきなよ」  ナイトメアはニヤニヤと笑う。ゾフィールの攻撃態勢に臆した様子はない。 「きみは人間が扱いきれない品を持っているね? しかもそれを閉じ込めるためにこの小屋から一歩も出られずにいる」 「この中にある物はおおむねそう言われているね。でも扱い方次第では人生を豊かにもできるよ」 「違う。たった一つ、きみが動けないほどの闇を抱えた品があるでしょ? 今は無理やりそれの動きを制限しているのかな? でも限界が来ている」  ゾフィールは足元に置いていた革の鞄をチラリと見た。──あの中には一年押さえ込んだ、両親が死ぬ原因となった品が入っている。 「……きみは国から派遣された使者かな? もしかしてあれを回収するつもり?」 「違うよ。面白そうだったから少し手を貸してあげようと思っただけ」  ナイトメアはカラカラと笑った。 「この遺物たちをもっと広くて綺麗な場所で管理したほうがいい。そのために僕は、僕の知恵も力も貸すよ」 「……管理がきみの目的には思えないね」 「そうだね。僕の希望はここにある道具で商売をすることかな。道具を手にした生者の結末を見たいんだ。この遺物たちの誘惑に勝って道具を使いこなすか、道具たちに操られるのか──」  ──自由になった道具が世界を壊すのか。  ゾフィールは小さく息を吐いた。目の前の少年はそれが可能だと確信している。この世界のどこを探しても、そんな文献はないはずだが。子供の勘、というものだろうか。 「広い場所で管理するのは賛成だけど、これを誰かの目に触れさせる気はないよ。これは私と一緒に朽ち果てるべきものだ」  現在の所有者ゾフィールは、この世界に現存すべきではない呪いの品々を自らの死体とともに焼き払うつもりだった。両親はそんなことができなかったが、彼はできると信じていた。 「本当にここにあるものがきみと朽ち果ててくれると思っているの? 無理だよ。この中には呪われた遺物もある。きみが死んだ後も、強い恨みは残り続けてこの世界に影響を与え続けるんだ」  まるで未来が確定しているかのように、ナイトメアは微笑む。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加