64人が本棚に入れています
本棚に追加
硬貨を入れる音。ボタンを押す音。それから、ガコンッてジュースが落ちてきた音がしても、私はそこから動けなかった。
まだ、かけるべき言葉が見つからずに、立ち尽くしてる。
廊下を歩く優くんの足音が近づいてきて、胸がドクドクと高鳴っていく。
ふっと優くんの影が私にかかり、勇気を出して声を絞り出した。
「ゅ……優くん!!」
その声に弾かれたように優くんが俯いていた顔を上げ、充血した優くんの目が大きく見開かれて私を見つめる。
その泣き顔に衝撃を受け、さっきまで出かかっていた声がストンと私の喉を通って落ちていく。グッと石が詰まったかのように、喉が塞がれた。
優くんは睫毛を伏せ、顔を逸らした。
それから……何も言わず、私の前を通り過ぎて行った。
遠ざかる足音を耳にしながら、私は未だ動けずにいた。
優くんに、私は……なんて、声をかけてあげれば良かったんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!