虫取菫とキューピッド

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「月子が佐藤君のこと話して来た時は、意識させる最高のタイミングだと思って」 「意識させるって…すごい自信」 「おぼこいおまえには十分でしょ?『可憐な』俺からのキスなんだし、なにより月子は押しに弱い。だから頼られると断れないわけだし」 「あーまじか…ほんとにどっからが計算なわけ…」 『こうしたら堕ちるだろう俺可憐だとか思われてるし』という、傲慢さがにじみ出た考え方がいかにも陽次郎的発想だ。 この幼なじみは、私の事を私以上に理解している。 キスも今回の事も、私に意識させて恋を自覚させるための伏線だったのかと思うと自然に両腕を摩ってしまう。 頭を抱えてしゃがみ込めば、向かいの相手も同じ様に腰を下ろした。 そして陽次郎が両手で私の顔を挟み、額を合わせてきた。 「あーやっと捕まえた」 おそらく普通の女はここでときめくのだろう。 しかし罠にはまったばかりの身からすれば、今はこの男に対する警戒心しか湧いてこない。 それでも結局相手を愛しく思えているのだから、恋は盲目などという言い回しがあるのだろう。 いつのまにか、私は麗しい食虫植物の葉の上に立っていたのだ。 キューピッドは他人の恋愛は成就させられても、自分の恋を実らすことはできない。 皮肉にもその願いを叶えてくれたのは、一番身近で罠にも気づかせない、可憐な虫取菫だった。 おわり
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