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その場にしゃがみこみ頭を抱えれば、陽次郎がぽんぽんと頭をなでてきた。
「できる男は違うな」
「モテちゃうからね、俺」
他の人間が言えばうすら寒い発言も、この男が言うとガンジー並みの説得力がある。
可憐とも言える見た目に物腰柔らかな話し方。
わりと毒を吐く奴だが、深く関わらなければそんなこと気にならないだろう。
おまけに来るもの拒まず去るもの追わずのガンジーどころか仏スタイルを貫き続けた結果、女の扱いもお手の物で死ぬ程モテる。
「恋の狩人に私の苦悩はわからんよ」
「狩らないから。俺の場合寄ってくるの」
「虫取菫だ」
「何それ」
私は手にしていた陽次郎のスマホでそのまま画像検索をし、画面を突き出した。
スマホを勝手に触っても怒らない程度には、寛容な男である。
「結構かわいいじゃん」
「そう、見た目は可憐でかわいい」
見せた画像は、紫色の菫に似た花の足下に肉厚のペールグリーンの葉が円状に広がっている美しい植物だ。
しかし、葉の部分の一見朝露のような美しい雫は実は粘着液だ。
花をめがけてきた虫はそこで捕まって消化される。
一通り概要を説明すれば、陽次郎は美しい口元をぽかんと開けた。
「月子って俺のこと可憐とか思ってたんだ」
「見た目の話な、中身が割と傲慢で毒っぽいの知ってっから食虫植物に例えてんの」
なんで嬉しそうにしているのかうろんな目でみれば、奴は花がほころぶ様な顔で笑った。
「植物やらオカルトやら歴史やら、昔から変なことに詳しいよな。こんなおもしろい奴がなんでふられるかな」
「ふられてないし。まだ始まってもなかったし」
「それが中高通算十六回続いてるのか。惚れっぽくて困ったもんだなうちの月子も。ああ愉快」
「日本が法治国家じゃなかったらぶん殴ってたわ」
手元のスマホからピポンと電子音が鳴った。
ちらりと見えた表示は女子の名前と絵文字付きメッセージだ。
「彼女からきてんぞ」
「彼女じゃないけど。お友達」
(現在補食中のお友達か)
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