12人が本棚に入れています
本棚に追加
陽次郎はモテるくせに誰かときちんと付き合う事が無い。
以前なんで付き合わないのと聞けば、「え?なんで付き合うの?」と返された。
私のまだ短い人生において恋愛観を揺るがす出来事の中で、最強のハイライトとなる発言だった。
大勢の女子と『遊ぶだけ』のスタンスがなぜかこの男には許されている。
相手の好意だけを吸い取り、自分がそれに答えることはない。
虫取菫が人間の形をしていれば、これほど当てはまる人物もそういない。
こんな男に捕まってしまった女子を哀れんでいれば、急に視界に男子生徒が入り込んで来た。
視線を上げればあどけなさの残る少年が緊張した面持ちで口を開いた。
「山吹先輩、ですよね。キューピッドの」
「名前の一人歩きです。私は人間です」
「俺、一年の佐藤って言います。お話があります!お付き合いください!」
「君、人の話聞かんタイプだな」
用意して来た台詞を一気に喋ったという風で、こちらの反応等気にしていない。
強引に手を引かれるも、異性の先輩に話しかける勇気を思えば無下に振り払えない。
「これは告白されるやつ?」
「安心しろ、きっとない。あ、今から人来るから解散で」
手をひらひらと振る相手にまた女かとため息を吐けば、佐藤君から殺気を感じた。
何だと見やれば、陽次郎を敵の様に睨みつけていた。
モテる男はそれだけ恨みも買っている。
しかし、それに気づいた陽次郎はにっこり微笑み返した。
(いや心臓チタンでできてんのかお前)
「若竹せんぱーい!」
北極のような空気に全力エスケープ願望を抱いていると、陽次郎の名字を呼ぶ愛らしい声と共にツインテールの女子が駆けて来た。
このこがさっきのメッセージの相手かと気を取られていれば、佐藤君に行きますよと腕を引かれた。
去り際に、強引な後輩に迫られて困るーと陽次郎に向かいサムズアップすれば、胸で十時を切られた。
心中で先ほどガンジーに例えたのに、なんだそのイエスなリアクション。
最初のコメントを投稿しよう!