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虫取菫とキューピッド
恋せよ乙女などという言葉があるが、実に無責任な言葉だ。
乙女に恋愛を推進するだけで、失敗する人間の気持ちなんて考えちゃいない。
「自転車にすら保険があるのに失恋に関しての保険は何で無いの」
「そりゃ入ってくるより出てく方が多くて儲からないって容易に想像つくからだろ」
6時間目が終わって40分ほど経った廊下は、人影もまばらだ。
窓の渕に座った幼なじみは、烏の濡羽色の髪を風になびかせて澄まし顔でそう言った。
「で、月子的には連勝記録伸ばしたの?」
「『連敗』記録だっつーの」
「相手の恋はまた実ったんだろ?」
「ばっちりだよ、大団円だよ、少女漫画かよ『山吹さんに相談のってもらったおかげだよ、ありがとう』って感謝するなら愛をくれよ」
「同情より金銭要求する少女並みにすれてんな」
今し方失恋したばかりの女になんてことを言うんだ。
男に清楚という言葉はおかしいかもしれないが、隣にいる幼なじみは黙っていれば清楚で美しい男なのにと半目で睨みつける。
「だいたい陽次郎が言ったんじゃん、近づく口実なら相談にでものってやればって」
「意中の相手の恋愛相談にのる時点で詰んでるし。結果、相手の恋愛成就させすぎてなんて呼ばれてるか知ってる?」
「恋愛マスター?」
「どんだけポジティブ、…キューピッドさんだってよ」
そう言って手にしていたスマホの画面をこちらに向けて来た。
高校名とキューピッドの検索ワードに引っかかった呟きが、タイムラインに並んでいる。
「なにこれ…よりによってコックリさんの別名でよばれるなんて…」
「多分ショック受けるとこおかしいわそれ。月子が生きる都市伝説になるなんて…おめでとう」
「不名誉すぎるわ、なんでこうなった」
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