裏切りすずめ

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「それ、本気で言ってるの? 怒るに決まってるでしょ。お母さんはこうやって毎日家のことを一生懸命やってるのに、自分だけ遊び回ってるのよ。腹が立たないの?」 腹は立っていたのです。けれどもすず女が代わりに怒ってくれたので、途端に気が済み、それどころか可笑しくなってしまいました。 「なんで笑うの」とすず女が不満顔をします。その一言で嫁は噴き出し、すず女の頭を優しく叩きました。 「味方してくれてありがとう」 すず女は少し照れた様子で、怒った表情を作ると、「お地蔵さまにお供えしてくる」と団子のお皿を持って出て行きました。 嫁にはすず女が自分の子どもに思えたときはありません。ただ、若くて素直なすず女の存在は、嫁にとって癒しとなっていました。 すず女は嫁の意見を聞き入れて、父親の前で悪態をつくことはありませんでした。父親はすず女をかわいがっていましたし、他人からはむしろ仲のいい家族に見えたでしょう。しかしそれ以降も、夫が出かける回数は減りませんでした。そして徐々に、嫁に対する夫の態度は冷たくなっていきました。 ある晩、嫁は夫にお酒の支度をしませんでした。意地悪ではなく、最近深酔いが続いているからと体を気遣ったのです。夫は怒って「おまえは気が利かない」と責めました。 「あまり飲んでは体に毒ですよ」     
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