1人が本棚に入れています
本棚に追加
あてもなく夜道を歩きながら、自然と目からは涙がこぼれます。どうして気づかなかったのでしょう。多感な少女にとって、自分は憎むべき相手以外の何ものでもなかったということに。すず女は最初から、資産家の父親を母親から奪い取った後妻に復讐に来ていたのです。
出てきたときは勢いで、一晩くらいなら実家かきょうだいのところに泊めてもらえばいいと考えていました。頭が冷えるにつれ、そうもいかないと気がつきました。
親きょうだいは皆、彼女が幸せに暮らしているとばかり思っています。実家を頼れば、高齢の親にどれほど心配をかけるかわかりませんし、資産家に嫁ぐ彼女を羨んでいた妹や兄嫁たちは、ここぞと彼女をあざ笑うでしょう。
行き先が決まらないまま村はずれまで来たとき、ふと、すず女の実家が思い浮かびました。実家は「すずめのお宿」という旅館です。嫁はその旅館の場所は知っていましたが、今まで実際に行ったことはありませんでした。すず女の母親であるすず子にも会ったことはありません。
行ってみたい――と思い、嫁はふらふらと山道を登り始めました。
やがてたどり着いた「すずめのお宿」は、山間にひっそりと佇む雰囲気のいい、こじんまりした古い旅館でした。中へ入ってみると、掃除の行き届いた温かい玄関広間で品のいい女性が出迎えてくれました。女性は嫁と同じくらいの歳ですが、ずっときれいでした。
最初のコメントを投稿しよう!