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「何をご覧になったのですか?」
嫁が問い返しても、夫は言葉を濁すだけです。不思議に感じた嫁ですが、確かにそんなこともあるかもしれないと、それまで以上に接し方に気をつけるようになりました。
数日経つとまた夫が同じようなことを言いました。今度も嫁は聞き返しますが、具体的にどこがいけないのかは答えてくれません。
嫁は一緒に食事の支度をしながら、さりげなくすず女を観察しました。すず女はいつも通り明るく、他愛もない話をしながら楽しそうに炊事をしていました。
見れば見るほどかわいく思えたので「あなたの家族になる人は幸せね」と嫁は言いました。すず女は「何言ってるの、お母さん」とくすぐったそうに笑いました。
代替わりしてからというもの、夫には外での付き合いが増えました。夜遅くに酔っ払って帰ってくることもたびたびありましたが、商売の会合だという言い訳を嫁は素直に信じていました。
「ひょっとして、浮気でもしているんじゃないの」と冗談っぽく言ったのは、すず女のほうでした。
嫁は疑いもせず「そんなことをする人じゃありませんよ」と返しました。
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