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すず女はやや不機嫌になって「お母さんて呑気ね」と言ったので、「何か知っているの?」と聞きました。すず女は慌てて「何も」とそっぽを向きました。
以来、嫁が気をつけていると、確かに不自然なところがありました。
それまで着けたことのない色の帯を締めていたり、男物にしては派手な巾着を持っていたり。自分で買ったのかと尋ねると、なぜか得意そうに「商売仲間にもらった」と答えます。
あるときは夫が嫁を見て「もう少しきれいにできないのか」と言いました。そんなことは、嫁いで以来初めてです。姑は嫁が家の財産に手を付けることを極端に嫌ったので、姑のおさがりでしか着物も化粧品も手に入れることはできませんでした。夫はそんな嫁を「おまえは着飾らなくてもきれいだから」と慰めていたのです。
少女らしい敏感さと潔癖症を発揮したすず女は、父親の態度に不審を覚えて、嫁にだけこっそりと悪口を言うようになりました。
「お父さん、他に女の人がいるのよ。気持ち悪い」
「魚釣りだなんて嘘ついて、今日もきっと相手の家に行ってるんだわ」
「もう、一緒にご飯食べるのも嫌になっちゃった」
「私が結婚する人もきっと浮気するのよね、あーあ」
最初は否定して宥めていた嫁ですが、次第にすず女の言うことが正しいように感じられてきました。
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