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夫は誰にもらったのか、雀の刺繍の入った手拭いや風呂敷を大事にしていました。おそらくは隠しているつもりなのでしょう、自分で洗濯しているのを、嫁は何度か見かけました。
ある朝、夫は嫁を見て「おまえはいつも同じ髪型だな」と言いました。普段口答えをしない嫁ですが、このときは思わず「誰と比べているんですか」と嫌味っぽい言葉が出ました。夫は答えず「会合に行ってくる」と出て行こうとしたので、「二人きりの会合なんでしょう」とさらに言いました。
その夜遅く帰ってきた夫は、会合の相手にもらったという小さなつづらを嫁に自慢しました。中には遠くから取り寄せた高級なお酒と、料亭でしか出せないような立派なお重が入っていました。
嫁は「相手はどこの料亭の女ですか」と詰め寄ります。
お酒の入った夫は「今まで隠していてすまない。おまえが気を悪くすると思ってね――」と笑いながら詫びた後、あっけらかんと答えました。
「これをくれたのは、すず女の母親だよ。前の女房だ」
だから浮気ではない、と言うのです。嫁はぽかんとしました。
「では、特別な間柄ではないのですね」
「ああ、ふつうの、夫婦みたいなもんだ」
「夫婦って、私がいるじゃありませんか」
「あいつとはおまえが嫁に来る前から夫婦だ」
「私が来る前は夫婦だったけど、別れたんでしょう」
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