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「別れたって、子どもがいるんだ、他人にはなれない。おまえだって、たびたび会いに行くのを認めてくれてたじゃないか」
「私が認めたのは、子どもに会うことだけです」
「子どもに会えば、母親にだって会うだろう」
夫には悪びれる様子がありません。話すうちにどんどん腹が立ってきた嫁は、つい今まで堪えていたことをグチグチ言ってしまいました。人使いが荒く身勝手な姑のもとでどれほど気を遣って生きてきたか、自分には子どもがいないのに夫が前妻の子をかわいがるのをどう思っていたか、そんな自分に対する夫の態度への不満などです。
顔色を悪くして聞いていた夫は、反論はせずに最後にこう吐き捨てました。
「よくわかったよ。やっぱりおまえは、陰で娘をいじめるような女だ」
「――え?」
嫁には言われた意味がわかりませんでした。
翌日も夫は朝から出かけました。すず女は嫁と一緒に団子を作りながら、そんな父親の悪口をぶつぶつ言っています。
一晩明けて冷静さを取り戻していた嫁は、いつものように娘の悪態を諭しました。すず女には縁談が進んでいるのです、結婚生活に何よりも肝心な忍耐を教えなければなりません。
「お父さんが会いに行っているのは、あなたのお母さんですよ。怒ることでもないでしょう」
するとすず女は顔を赤くして口ごもった後、半ば嫁に食ってかかりました。
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