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「ヒドすぎる…」
暗い室内で男は呟く。そこに設置された巨大な画面に流れる映像には、
砂塵が飛び交う街並みを、武装した兵士達が行進する映像が流れている。
手元に携えた自動小銃を突き出すように天に掲げ、彼等の信奉する神の名前を叫ぶ奴等が
引き立てていくのは、極めて場違いな存在。
ふわふわしたスカートにフリフリな衣装をあしらえた、一見、砂で薄汚れてはいるが、
その可憐さは失われていない変身ヒロイン、魔法でも使いそうな少女。
時代は変わった。今や、世界の平和や外界から来る未知の敵に対応するのは“軍隊”
ではない。パワードスーツを着た天災学者や魔法使いに巨大ロボット、変身ヒーロー、
漫画に映像媒体から飛び出してきたような連中がそれを担う。
どこまでが現世の夢?それとも全部幻?悪い世界?よくわからないが、
実際に目の前で起こっている事は、現実という事だろう。
世界は平和に?…勿論、違う。争いは増加の一途。年々増え続ける一方だ…
核爆発でも殺せないスーパーヒーロー、ヒロインが闊歩する時代、
パワーバランスの崩壊した世界は、文字通りの無法地帯。基準もへったくれもない。
最強で不死身。そんな奴等がたくさんいる。
誰もが、最強と世界の覇権を目指し、日進月歩で新たな敵と
正義(最も正義なんて言っても、どれが正しいかの判断基準もあやふや)
が生まれていく。
統制する連中もなく、いや、出来ないな…例えるなら、右に左に揺れまくりの船で
心地よさげな船酔いを満喫する世界。
映像に映る彼女も、自身の正義のために戦ったのだろう。そして、失敗したのだ。
助けに行く奴はいない。付随する資料によれば、この地域の武装集団はヤバい事で
有名だ。
更に言えば、最強の存在に籍を置くヒーロー達も助けには来ない。聞けば、宇宙から強大な敵が来るため、その準備のため、目下、手が離せない現状らしい。
これが連中の弱点でもある。世界の平和を守り、巨大な悪を倒すのは良い。
だが、その後は?誰が平和を守る?
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