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じいじと遊ぶのはいいけど、こんな山の中をいつまで歩くんだろう。お家で遊んでいる方がよかった。少し開けた場所に出ると道ばたの石に腰掛けて水筒の水を飲んだ。レモンの木なんか無かった。じいじはウソをついたんだ。僕は水筒の栓を閉めながら、じいじを横目で見た。じいじは僕を見ながらニコニコと微笑んでいる。僕はちょっとムッとして言った。
「レモンの木は?」
じいじは相変わらずニコニコしたまま、そうだねえと呟いた。
「ウソじゃん。」
じいじはまた、そうだねえと呟くと僕から目を周囲の林に移した。
「…」
僕は頬を膨らませて、水筒をリュックにしまった。じいじはたまに僕の分からないことをする。ビックリすることが多いけど、つまらないこともある。
「…カブトがいるな。」
じいじが林の中にある少し離れた木を指さした。カブトムシがいるらしい。大人は男の子は虫が好きだと思っているみたいだけど、僕はちょっと苦手だ。それにカブトムシなんて大して珍しいモノじゃない。じいじは立ち上がって、取ってくると言う。
「え、いいよ。」
僕は断ったけど、いいからいいからと言いながら、薮の中に入ってしまう。なんだよ、自分が取りたいんじゃん。全くどっちが子供か分からない。僕はじいじのことは放っておいて座っていた。
ふと足元を見た時、黄色いスズメバチと目が合った。いつからそこにいたのだろう。目の前数センチの近い地面に、伏せるようにしている。目が合ったのが分かったのだろうか。しばし睨み合った後、翅をブルブルと震わせ始めた。ゲゲゲ!ヤバイ!これはヤバイ!
「じ…」
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