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ポンポンと優しく頭を触られた。いつの間にか隣にお姉さんがいた。すぐ横に並んで腰掛けている。少し雨に濡れた服から何かの果物のようないい匂いがした。僕はちらりと振り返ると、至近距離に女の人の顔があった。見つめる彼女の視線から逃げるように、僕は洞窟の外に目を戻した。大丈夫?という言葉とは裏腹に、お姉さんはあまり心配そうな表情をしていなかった。慰めるように微笑むわけでもなく、ただ無表情だった。
変な人だ。そんな言葉に彼女を当てはめた。変な人って思ったら、なんだか怖くなってきた。変な人って何をするんだろう。山の中に住んでいて、時折訪れる旅人を食べてしまうヤマンバの絵本を思い出した。僕は隣のお姉さんが恐ろしい顔で僕を見ている気がしてきた。雨が止んだら隠れ家に連れていかれるのかな。実はこの洞窟が隠れ家じゃないのかな。
「寒い?」
お姉さんが僕を優しく抱き寄せた。怖い想像をしているうちにガタガタと震えていたらしい。お姉さんは最初ヒンヤリとした感触だったけど、触れあった腕や背中からだんだんと温もりを伝えてくれた。恐る恐る振り返ると相変わらず無表情だった。でも恐ろしくはなかった。僕はなんとなく恥ずかしい気がしてきたけど、背中に感じる温もりから離れたくなかった。
「大丈夫。」
僕の声が告げた。僕の目は雨が木々を洗う様子を写していた。
「お~い。」
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