episode232 SとMの交錯

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僕の唇を潤すライムジュースを舐めとるように 王子様は朝からセクシーなキスを落とす。 伏せた睫毛の奥で いつも分別のある瞳が この時とばかりは少年のように物欲しげに揺らいだ。 「夕べ――君が僕を求めてくれて嬉しかった」 「九条さん……」 やがて九条さんは切なげな声でポツリと呟く。 「僕はてっきり彼を追って行ってしまうと思ってたから」 夕べ――。 「あ……」 セラピー会場から姿を消したお兄様。 「あなたといたかったんだ。嘘じゃないよ」 「嘘だなんて言ってないでしょ」 「ああ……うん」 嘘じゃない。 嘘じゃないけどでも。 「分かってる。君の意思じゃどうにもならない事」 九条さんが暗に指摘する通り あれから僕はずっと――気持ちは誰かさんの後を追っていた。
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