episode232 SとMの交錯

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準備に手間取りはしなかった。 「左の手も繋ぐよ――」 お遊びの道具は揃っていたし この部屋でいつも僕がやられていたことだ。 「きつくない?」 「気にするな」 天井から下がった鎖の手枷に繋がれた王様は さながら自ずから罠にかかった獣。 首筋は長く鎖骨は深い。 肩から腕にかけて 緻密に計算されたかのように鍛えられた筋肉は いつ見ても惚れ惚れするほど美しい。 「見ているだけか?」 首を傾ぐと長い前髪が目元に翳を作り 官能的な唇が物憂げに開いた。 「こんな姿のお兄様……初めてだから……」 初めてだ。 いつも僕が後追いしていた 意地悪な気まぐれが――。 今は完全に僕に繋がれている。
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