episode232 SとMの交錯

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自分でも思っていなかった。 それで僕がこんなにも安堵の念を感じるなんて。 「だから――そうすることに許しを乞うて下さい」 僕が流す邪まな涙に 絆されたわけじゃあるまいに――。 「……してくれ」 無慈悲な人生に逆らうのを止めたのか。 安らぎを見出した賢人のように征司は穏やかに言った。 「許してくれ、和樹。やっぱり俺は……」 しかし長い睫毛を伏せ目を閉じて 再びその瞳が僕を視界にとらえた瞬間――。 「え……?」 僕はまた厄介なやり方で 眠れる獅子を起こしてしまったことに気が付いた。 「やっぱり俺は変われないみたいだ」 「なっ……!」 繋がれていた鎖から 手品のようにするりと手首が抜ける。 縛られていたはずの獣は ゆっくりと肩を回して 「泣くなよ馬鹿だな、おまえの方がさんざん叩いたくせに」 どうしようもなく楽しげに笑った。
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