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自分でも思っていなかった。
それで僕がこんなにも安堵の念を感じるなんて。
「だから――そうすることに許しを乞うて下さい」
僕が流す邪まな涙に
絆されたわけじゃあるまいに――。
「……してくれ」
無慈悲な人生に逆らうのを止めたのか。
安らぎを見出した賢人のように征司は穏やかに言った。
「許してくれ、和樹。やっぱり俺は……」
しかし長い睫毛を伏せ目を閉じて
再びその瞳が僕を視界にとらえた瞬間――。
「え……?」
僕はまた厄介なやり方で
眠れる獅子を起こしてしまったことに気が付いた。
「やっぱり俺は変われないみたいだ」
「なっ……!」
繋がれていた鎖から
手品のようにするりと手首が抜ける。
縛られていたはずの獣は
ゆっくりと肩を回して
「泣くなよ馬鹿だな、おまえの方がさんざん叩いたくせに」
どうしようもなく楽しげに笑った。
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