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膨らんだ切り札を撫でながら
貴恵は小馬鹿にしたように僕を一瞥する。
「いいですよ――そこまで言うなら。僕だってそんなに暇じゃありませんから」
そうだ。
僕が屋敷に戻ってきた名目は他でもない――。
「でもその前にお二人に聞きたいことがあります」
「何よ改まって?」
「征司お兄様の事です」
その名を口にするだけで
僕の心は条件反射のようにざわつきひどく緊張した。
「征司兄の?そんなのおまえが一番詳しいんじゃないのか」
薫は仕方なく手近の椅子に腰を下ろすと
薄い唇を皮肉な形に吊り上げる。
「征司の事?」
一方ゴシップ好きのお姉様の方は
何かを感じ取ったのか。
「いいわ。話してみなさいよ。私たち兄弟じゃない」
手の平を返したように
急にやさしい声色で僕の方に向き直った。
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