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「いやー、まさか全部食うとは思わなかったよ」
庸介は髪を洗われながら牛丼屋でのやり取りを思い出してクスクスと笑った。
「今喋ると口の中に泡が入りますよ!」
思い出したくないのだろう。不機嫌そうな声が浴室に響く。
牛丼屋に入った二人は入り口の自販機で食券を買った。並と大盛り、おしんこ二つと豚汁二つ。
そう、残念ながら椿の憧れた注文は出来なかったのだ。
すっかりしょげた様子の椿と憐れんだような楽しそうな庸介が椅子に掛けると、店員が水を運んできた。
「食券お預かりします」
椿は食券を渡しながら意を決したように顔を上げた。
「つ、つゆだくはできますか?」
「つゆだくですね、お二つとも?」
「あ、僕はいいです。彼女だけお願いします」
店員は食券を受け取りお辞儀をするとそこを離れた。
「良かったじゃないか」
椿は興奮した様子で頬を赤らめると、大きく頷いた。
「つゆだく頼めました。楽しみです。庸介さんはよく来られるのですか?」
「いや、帰国してからは初めてだ。ベトナムに行く前には時々来たけどね」
しばらくそんな話をしていると、食事が運ばれてきた。
「はい、こちらが大盛りつゆだくでこちらが並です」
そう言うと店員は、大盛りを椿の前に並を庸介の前に置いたのだ。
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