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真剣な表情の中に不安の色が混じりだした椿の手の中のリモコンの電源ボタンを押した。
「……テレビに出るなんてただでさえ恥ずかしいのに、その中で格好つけてる自分を見られるのは本当に恥ずかしいんだ」
画面の中に映る庸介のアパートメント。まだ始まって間もないようだった。
「本当は椿に観てほしいのに、引かれたらどうしようと怖気づいて、打ち合わせにかこつけて終わった頃に帰ろうと思ったんだ。それを斉木くんに見抜かれたというわけだ」
「引くって……私がですか?」
「ああ。現にこの間も番組を見ていたら具合が悪くなっただろう? やっぱり、引いたというか嫌だったのかなぁって」
斉木の強く優しく人間らしい言葉が思い出される。
突然に白く靄のかかっていた視界が晴れた気がした。
もしもあの夜、過去ばかりを見て今を見ない自分勝手な想いををただ真っ直ぐにぶつけていたら、もしかすると斉木の言うように庸介は井桁簾楊を捨て椿から離れたかもしれない。今こうして隣にいることもなかったかもしれない。晴れた視界の中目の前にいる庸介を見つめた。
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